2025/05/11(日)「104歳、哲代さんのひとり暮らし」ほか(5月第2週のレビュー)
「最終話の脚本、書き直して欲しいです」
テレビドラマの脚本家・倉田(仲野太賀)はファミレスで見知らぬ女から唐突に頼まれる。女は50年後の未来から来たという由比(福地桃子)。倉田が書いているドラマの主演女優の孫だという。由比によると、このドラマ、脚本の出来が悪かったため、最終話の視聴率が最低の0.3%だった。倉田は脚本が書けなくなり、プロデューサーは子会社のある宮崎に飛ばされた。それだけでなく、「Wikiによると」このドラマの後、民放の地上波からドラマはなくなった。主演女優は「視聴率最低女優、0.3%の女」と言われて引退。倉田と結婚することになる。つまり、由比は倉田の孫。さあどうする、という展開。
結末が個人的にはやや不満ですが、切なさを伴う時間テーマSFの佳作になってます。仲野太賀が当然のことながらうまく、福地桃子はいつものようにユニークでチャーミングで微笑ましくて良いです。もっと売れて良い女優だと思います。
全編をiPhoneだけで撮影した映画は過去にも例があります。有名なところでは「ANORA アノーラ」のショーン・ベイカー監督が「タンジェリン」(2015年)をiPhone 5Sで撮影しています。白石和彌監督の「麻雀放浪記2020」(2019年)はiPhone8 Plusで撮影されたそうです。是枝監督はインタビューで「iPhoneだけで劇場公開用の作品を撮れるという時代は、もうすぐそこまできていると思いました」と話していますが、10年前からあるんですぜ。
「104歳、哲代さんのひとり暮らし」
100歳を越えて広島県尾道市で一人暮らしをする石井哲代さんを描くドキュメンタリー。101歳から104歳までの哲代さんの暮らしを紹介しています。長生きの秘訣みたいなありふれたところにフォーカスしなかったのが良く、老後について、介護についてばかりでなく、生き方そのものについてのさまざまな示唆に富むドキュメンタリーだと思います。哲代さんは20歳で小学校の教員となり、26歳で同僚の良英さんと結婚。 56歳で退職後、民生委員として地域のために尽くしてきた。近所の人たちからは今も「先生」と呼ばれる。83歳で夫を見送り、ひとり暮らしになった。
101歳の哲代さんの足は弱って家の前の坂は後ろ向きにしか降りられませんが、耳は遠くなく、認知症も大丈夫のようです。ただ、少し忘れっぽいところはあるよう。子供はいませんが、近くに住む姪2人が折々に面倒をみてくれています。自宅の離れにある風呂には入れなくなったため、週2回、デイサービスでの入浴が楽しみです。
以前、認知症を研究する大学教授に「80歳以上の3人に1人は認知症、100歳以上は全員認知症」と聴きました。哲代さんは数少ない例外なのでしょう。しかし、101歳から104歳までの間に老いは着実に進行します。ガスコンロの火で服が燃えたため、姪がIHクッキングヒーターに変えます。普通、高齢になると、新しいものを使うことは困難になりますが、哲代さんは何とかお湯を沸かすぐらいは使えるようです。足の持病が悪化して入院することも。1人でできないことは多くなりますが、そこは支援を受けながら、1人でなんとか暮らしています。肩肘張らない自然体の生き方に学ぶところが多いです。
クライマックスは7歳年下で脳梗塞のため寝たきりで施設に入っている妹との対面シーン。哲代さんは透明の仕切り越しに「ももちゃん、ももちゃん」と呼びかけながら、昔の話をします。目を閉じて聴いている妹の目には涙がにじんでいました。
山本和宏監督は広島出身でさまざまなドキュメンタリーを撮ってきた人。中国新聞の連載記事で哲代さんを知って取材するようになり、一部はiPhone13 Proで撮ったそうです。ナレーションはリリー・フランキー。
▼観客15人ぐらい(公開2日目の午前)1時間34分。
「終わりの鳥」

余命わずかな15歳のチューズデー(ローラ・ペティクルー)のもとに言葉を話す奇妙な鳥が来る。生きものの“終わり”を告げるデス(DEATH)という名の鳥だった。デスは体の大きさを自在に変えられ、死にそうな人間にとどめを刺す役割を担っている。チューズデーはデスの役割を知り、母親ゾラ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)が帰宅するまで待つように頼む。家に戻ったゾラはチューズデーからデスを遠ざけるべく暴挙に出る。
母親は小さくなったデスを叩き潰し、燃やしますが、それでもデスが死なないため食べてしまいます。デスを食べた母親はどうなるのか、というところが面白く、どう決着を付けるのかと思ったら、そこは少し肩透かしでした。

監督はクロアチア出身でこれが長編デビューのダイナ・O・プスィッチ。前半を見て短編のアイデアだなと思いました。中盤以降にももう少し凝った展開が欲しく、このアイデアなら1時間半程度に収めたいところでした。母親役のジュリア・ルイス=ドレイファスは「サンダーボルツ*」でCIA長官を演じました。
IMDb6.3、メタスコア69点、ロッテントマト76%。
▼観客4人(公開6日目の午後)1時間50分。
「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」

リーが撮影するのは病院で包帯だらけになった兵士や、ドイツ兵の愛人で祖国を売った裏切り者として髪を切られるフランス人女性、大量のユダヤ人の死体がある列車、ダッハウの強制収容所の惨状などです。戦争の残虐度が次第に増していく撮影内容はショッキングで、僕は面白く見ましたが、アメリカでの評価はいま一歩。リーの功績に比較すると、構成も含めて平凡ということのようです。
リーの友人役でマリオン・コティヤール。ウィンスレットとコティヤールは同い年ですが、コティヤールの方が若く見えます。僕はウィンスレットの演技は好きですが、もう少し体を絞った方が良いとは思います。あまり外見を気にしない人なのかもしれません。
IMDb6.9、メタスコア62点、ロッテントマト67%。
▼観客6人(公開初日の午前)1時間56分。
「#真相をお話しします」
結城真一郎の同名小説を豊島圭介監督が映画化。原作は5編を収録した短編集で、週刊文春ミステリーベスト10で3位、「このミステリーがすごい!」で13位などにランクされました。映画は順番に「惨者面談」「ヤリモク」「三角奸計」の3編と全体をつなぐ物語として「#拡散希望」(短編部門の日本推理作家協会賞受賞)を映像化しています。「#拡散希望」に映画オリジナルで付け足した部分が長い割に面白さに欠け、まとめの役割としては弱いです。ここの登場人物が他の3編にコメント・介入してくるので、物語の緊張感が途切れるデメリットにもなっています。映画は「#真相をお話しします」という配信番組で視聴者が参加して、それぞれの事件の真相を語るという設定。4つの話を無理に関連付けず、単純にオムニバスにしても良かったんじゃないかと思いますが、それだと何かまずいことがあるんでしょうかね。脚本は「総理の夫」(2021年、河合勇人監督)、「矢野くんの普通の日々」(2024年、新城毅彦監督)などの杉原憲明。出演は大森元貴、菊池風磨、中条あやみ、岡山天音、福本莉子、綱啓永ら。
▼観客15人ぐらい(公開14日目の午後)1時間57分。