2025/07/27(日)「木の上の軍隊」ほか(7月第4週のレビュー)
「木の上の軍隊」

1945年、宮崎出身の少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名(あげな)セイジュン(山田裕貴)は米軍の激しい銃撃を受け、大きなガジュマルの木の上へ身を潜める。太い枝に葉が生い茂るガジュマルの木は隠れ場所として最適だったが、木の下では仲間の死体が増え続け、敵は迫ってくる。2人には連絡手段もなく、援軍が現れるまでこのまま耐えようとする。終戦を知らないまま、彼らは木の上で“孤独な戦争”を続けるが、やがて食料が尽きる。2人は米軍の残飯で生き延びていくことになる。
伊江島は沖縄本島北部から北西9キロにある面積23平方キロの島。序盤、日本軍の命令で建設したばかりの飛行場を今度は壊すよう命令された住民たちが作業中に米軍の爆撃に倒れるシーンは広い絵も含めて大がかりに描かれます。殺されていく民間人の姿には心が痛みますし、沖縄戦の映画でよく描かれる、ガマ(自然洞窟)に入れてくれと兵士に頼む親子の場面も出てきます。本土防衛の捨て石にされた沖縄戦の悲劇は鉄の暴風雨と言われた米軍艦砲射撃の苛烈さとともに、住民を守らない日本兵が多かったことにあります。平監督はそうしたことをてきぱきと描いた後、難を逃れた2人の日本兵のサバイバルを描いていきます。
横井庄一さん(終戦後28年)や小野田寛郎さん(同29年)ほどの長年月ではありませんが、島のジャングルにいたため終戦を知らなかったという状況は同じでしょう。ただ、日本国内でなぜ終戦に気づかなかったのかと思ったら、伊江島の住民約2100人は米軍に収容され、慶良間諸島に移送されていたそうです。住民が島に戻ってきたのは終戦後2年近くたってからで、そこで2人はようやく終戦を知ることになったというわけです。
平監督は題材を正攻法に描いていて、堤真一と山田裕貴も頬がこけるほど体重を落としてリアルに演じています。悲惨なだけではないユーモアが滲むのはこの2人の好演によるところが大きいでしょう。終盤にセイジュンが見る夢(幻覚)のシーンも秀逸でした。惜しむらくは、米軍支配下の島の全体的な状況を含めてサバイバルの詳細な状況をもっと知りたいところではありました。
パンフレットによると、山下少尉のモデルとなった山口静雄さんは小林市出身、セイジュンのモデルの佐次田秀順さんは沖縄県うるま市出身だそうです。主題歌「ニヌファブシ」(北極星)を伊江島出身のシンガーソングライターAnlyが歌ってます。
▼観客4人(公開初日の午後)2時間4分。
「年少日記」

高校教師のチェン(ロー・ジャンイップ)が勤める学校で自殺をほのめかす遺書が見つかる。私はどうでもいい存在だ……幼少期の日記に綴られた言葉と同じだった。彼は遺書を書いた生徒を捜索するうちに、閉じていた日記をめくりながら自身の幼少期の辛い記憶をよみがえらせていく。弁護士で厳格な父(ロナルド・チェン)のもとで育った兄弟の記憶だ。勉強もピアノも何ひとつできない兄と優秀な弟。親の期待に応える弟とは違い、出来の悪い兄は家ではいつも叱られていた。しつけという体罰を受ける兄は家族から疎外感を感じていた。
監督インタビューによると、物語は大学時代に監督が体験した出来事(仲間の死)を投影しているそうです。体験の直接的な描き方ではなく、子供への抑圧に転化した脚本は見事と言って良いと思いました。兄弟の描き方は立場が逆ではありますが、「エデンの東」(1955年、エリア・カザン監督)をなんとなく想起しました。
IMDb7.7、ロッテントマト100%(観客スコア。アメリカでは限定公開)
▼観客3人(公開5日目の午後)1時間35分。
「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」

それもあってか、4人が宇宙放射線を浴びて超能力を得るシーンは省略。1960年代に考えられた未来のデザインはレトロフューチャーなもので悪くありませんが、敵のギャラクタス、シルバーサーファーの有り様は新味に乏しく感じました。
スー・ストームの役は「ファンタスティック・フォー 超能力ユニット」(2005年、ティム・ストーリー監督)のジェシカ・アルバ(公開当時24歳)に比べると、今回のヴァネッサ・カービーは年齢が上過ぎるのではと思いましたが、これは母親になる展開を考慮してのキャスティングなのかもしれません。ファンタスティック4のリーダーであるリード・リチャーズを演じるペドロ・パスカルともどもスター性には欠けるのが少し残念。
監督はディズニープラスの傑作ドラマ「ワンダヴィジョン」(2021年、全9話)のマット・シャクマン。考えてみると、「ワンダヴィジョン」もレトロなドラマを思わせる作りになってました。
今後のMCU作品は来年夏に「スパイダーマン ブランド・ニュー・デイ」、同年末に「アベンジャーズ ドゥームズデイ」、その1年後に「アベンジャーズ シークレット・ウォーズ」が予定されています。
IMDb7.5、メタスコア64点、ロッテントマト88%。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)1時間55分。
「ラ・コシーナ 厨房」

ニューヨークにある観光客向けの大型レストラン「ザ・グリル」の厨房は目の回るような忙しさ。店の売り上げ800ドル余りが消えていることが分かり、従業員に盗みの疑いがかけられる。さらに次々とトラブルが起こり、調理人のペドロ(ラウル・ブリオネス)と密かに愛し合うウエイトレスのジュリア(ルーニー・マーラ)らスタッフのストレスは最高潮に達する。
移民の多い調理場はアメリカの縮図と言え、怒りが爆発するクライマックスは不安定な移民の立場を象徴しているのでしょう。それは分かるんですが、もう少しコンパクトな作りにした方が良かったかなと思いました。監督はメキシコ出身のアロンソ・ルイスパラシオス。
IMDb7.1、メタスコア75点、ロッテントマト71%。
▼観客3人(公開7日目の午後)2時間19分。