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2025年07月13日の記事

2025/07/13(日)「スーパーマン」ほか(7月第2週のレビュー)

 全編ワンカットで撮影した「三谷幸喜『おい、太宰』」のWOWOW版を見ました。劇場版はWOWOW版に「もう一つのエンディング」を付け加えているそうです。上映時間は劇場版が1時間41分に対してWOWOW版は1時間37分。本編がかなり面白ければともかく、これぐらいの出来だと、確認のためだけに劇場版を見る気にはなりません。

 太宰治ファンの小室健作(田中圭)が妻の美代子(宮澤エマ)とともに結婚式の帰り、太宰治が心中未遂事件を起こした海岸に迷い込む。海岸の洞窟を抜けると、そこには太宰治(松山ケンイチ)と愛人のトミ子(小池栄子)がいた。タイムスリップしたらしい。心中未遂で太宰は助かるが、トミ子は死んだ史実がある。トミ子にひと目ぼれした健作はトミ子を救おうと奔走する。

 三谷幸喜が全編ワンカットの映画を撮るのは「short cut」(2011年)、「大空港2013」(2013年)に続いて3作目。最初の「short cut」はただワンカットで撮っているだけという作品でしたが、それに比べれば面白くなってはいます。ただ、最近は「ソフト クワイエット」(2022年、ヘス・デ・アラウージョ監督)、「ボイリング・ポイント 沸騰」(2021年、フィリップ・バランティーニ監督)など技巧を凝らした全編ワンカット撮影の作品が多く、そうした作品に比べると分が悪くなりますね。

「スーパーマン」

「スーパーマン」パンフレット
「スーパーマン」パンフレット
 いったい何作作れば気が済むんだと思えるほど、何度も映画化されている「スーパーマン」ですが、ジェームズ・ガンがDCスタジオの共同代表になったからにはDCにとって最も重要なキャラの映画を撮るのは必然だったのでしょう。その期待を裏切らない出来になっています。

 映画は3分前に初めてスーパーマン(デイビッド・コレンスウェット)が敵の「ボラビアのハンマー」(ウルトラマン)に敗れ、雪原に落ちてくる場面から始まります。予告編で流れたように傷だらけのスーパーマンを救うのは愛犬のクリプト。クリプトはマントを噛んでスーパーマンを引きずり孤独の要塞まで連れて行きます。孤独の要塞の場所はリチャード・ドナー監督版「スーパーマン」(1978年)では北極でしたが、この映画では南極になってます。この映画の要塞は地下に潜るので北極では都合が悪いからでしょうか?

 要塞で回復したスーパーマンはハンマーの背後にいるレックス・ルーサー(ニコラス・ホルト)の組織と対決することになる、という展開。ハンマーがスーパーマンに勝てた理由はルーサーがスーパーマンの戦い方を研究したことと、もう一つ大きな理由がクライマックスに分かります。これは納得できる理由なんですが、そんなに簡単にそれができれば、いくらでもスーパーマンの強敵を作れてしまいますね。

 スーパーマンと共闘するのはグリーンランタン(ネイサン・フィリオン)、ミスター・テリフィック(エディ・ガテキ)、ホークガール(イザベラ・メルセド)のジャスティス・ギャング。巨大な怪獣など敵のヴィランも多数出てきて、このあたりはジェームズ・ガンのサービス精神の表れなのでしょう。途中、演出が少し緩むところもありますが、僕は全体的に楽しく見ました。ドナー監督版の音楽(ジョン・ウィリアムズ)がフィーチャーされてるのも良いです。あの音楽の素晴らしさは無視できないものなのでしょう

 ロイス・レーンを演じるのは今年公開された「アマチュア」(ジェームズ・ホーズ監督)のレイチェル・ブロズナハン。間もなくシーズン2が始まるピースメイカーがちらりと出てきます。

 それにしても、スーパーマンの父親ジョー=エル(ブラッドリー・クーパー)の真意は少し衝撃でした。映画のオリジナル設定なんでしょうか?
IMDb7.7、メタスコア68点、ロッテントマト82%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間9分。

「ストレンジ・ダーリン」

「ストレンジ・ダーリン」パンフレット
「ストレンジ・ダーリン」パンフレット
 時制をシャッフルしたサスペンス。物語に意外性を持たせるためにきちんと考えられた構成で、3章→5章→1章→4章→2章→6章→エピローグの順番で描かれます。実際には3章の前に1章が部分的に描かれ、これが観客をミスリードする内容になってます。

 というわけで予備知識なしで見た方が良い映画。詳しい紹介を省略して冒頭の字幕をパンフレットから引用しておきます。

 「2018年から2020年にかけてシリアルキラーが全米を震撼させた――。コロラドを皮切りにワイオミング、アイダホへと広がり、オレゴンの山奥にて終幕を迎えた。この物語は、警察や目撃者の証言などをもとに、一連の殺人事件を映画化したものである」。

 意外性といっても、登場人物が少ないので、すれた観客なら予想はつくでしょう。監督・脚本のJ.T・モルナーは長編2作目。僕は特に前半が良い出来と思いましたが、物語の構造が分かった後も、面白さを持続させる技術がありますね。主演の“レディ”をウィラ・フィッツジェラルド、“デーモン”をカイル・ガルナーが演じています。
IMDb7.0、メタスコア80点、ロッテントマト96%。
▼観客6人(公開初日の午後)1時間37分。

「夏の砂の上」

 オダギリジョー、松たか子、髙石あかりら出演者はすべて悪くないのに盛り上がりに欠ける作品。このストーリーだと、単なるついてない男の話でしかなく、特にラスト前、主人公がけがをするエピソードなどはまるで不要だと思えました。

 劇作家・演出家の松田正隆の原作戯曲を「そばかす」(2022年)の玉田真也監督が映画化。長崎で幼い息子を亡くした小浦治(オダギリジョー)はその喪失感から、妻の恵子(松たか子)と別居中だった。勤めていた造船所の下請け企業が倒産した後、再就職せずにふらふらしている治の元へ、妹の阿佐子(満島ひかり)が17歳の娘・優子(髙石あかり)を連れてやってくる。阿佐子は1人で博多の男の元へ行くので、しばらく優子を預かってほしいという。治と優子の同居生活が始まる。高校に行かず、コンビニのアルバイトを始めた優子はそこで働く先輩の立山(高橋文哉)と親しくなる。

 長崎の方言は心地良かったんですが、長崎はあんなにすぐに断水するのかとか、大昔じゃあるまいし雨が降ったら鍋に水をためるのか、など疑問を感じる描写があります。松田正隆は「美しい夏キリシマ」(2002年、黒木和雄監督)の脚本や「紙屋悦子の青春」(2006年、同監督)の原作を書いた人。この傑作2本に比べると、「夏の砂の上」の完成度は大きく劣った印象です。原作戯曲は読売文学賞を受賞していますので、優れた作品なのでしょうけどね
▼観客2人(公開7日目の午後)1時間41分。

「東京予報 映画監督外山文治短編作品集」

「東京予報」入場者プレゼント
入場者プレゼント
 「はるうらら」(20分)「forget-me-not」(15分)「名前、呼んでほしい」(26分)の3本。この順番で上映され、この順番で面白かったです。ヒッチコックは「ある監督は、人生の断面を映画に撮る。私はケーキの断面を映画に撮るのだ」という名言を残していますが、外山(そとやま)監督は人生の断面を描きたかったそうです。

 「はるうらら」は中学生の二宮春(星乃あんな)と水原麗(河村ここあ)が、母親と離婚して以来会っていない春の父親(吉沢悠)に会いに行く話。春は麗の顔にほくろを描き、春のふりをさせて父親に会うが…。星乃あんなは「ゴールド・ボーイ」(2023年、金子修介監督)の時より大きく背が伸びてましたが、演技の輝きは変わっていません。河村ここあはアイドル的に売れそうなルックスですね。
外山文治監督と田中麗奈さん(宮崎キネマ館)
外山文治監督と田中麗奈さん
 上映前に外山監督と「名前、呼んでほしい」主演の田中麗奈さんのあいさつがありました。

 田中さんの第一印象は「顔ちっちゃ」。映画ではそんなこと感じませんが、実物は小さい小さい(はい、美人の条件です)。約30分の受け答えには聡明さと落ち着きを感じさせ、まじめに映画に向き合っている人だなと思えました。外山監督によると、田中さんは本当に映画が好きなのだそう。

 外山監督は福岡生まれの宮崎育ち。田中麗奈さんの主演作では「東京マリーゴールド」(2001年、市川準監督)が好きだそうです。僕もこの映画の田中麗奈さんの演技には感心しまくりました。今後もたくさんの映画に出てほしいです。
▼観客多数(公開2日目の午後)

「映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」

「映画おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」パンフレット
パンフレットの表紙
 練馬ジム原作のコミックを基にしたテレビドラマ(略称おっパン)の劇場版。評判の良かったドラマ版(全11話)は3話まで後追いで見ました。特にLGBTQへの偏見に凝り固まった昭和生まれのおやじをアップデートしていく内容で、そのおやじ、沖田誠を演じるのが原田泰造。引きこもりの息子(城桧吏)、BL漫画の同人活動をしている娘(大原梓)、妻の美香(富田靖子)、息子の友人でゲイの大地(中島颯太)らとのユーモアを絡めたドラマが展開されました。

 映画はドラマの後を受けた展開ですが、特にドラマの知識がなくても分かる内容になってます。テーマも真っ当ですし、よく出来た劇場版と思います。監督は「晩酌の流儀」「ゆるキャン△」など多くのテレビドラマを演出している二宮崇。脚本は「るろうに剣心」(2012年)や「鳩の撃退法」(2021年)などの藤井清美。
▼観客7人(公開5日目の午後)1時間54分。