2015/01/25(日)「アップサイドダウン 重力の恋人」

 よく似た設定の「サカサマのパテマ」の時にも思ったのだが、同じ場所にいる人物に重力が選択的に働くという設定には大きな無理がある。この映画では逆物質という概念で説明しようとしているが、これは物理の法則を知らない人の妄想の産物。だからこれはほとんどバカSFの世界だ。

 ところが、監督・脚本のフアン・ソラナスはこれを大まじめに撮っており、基本的な設定を忘れてしまえば、それなりに見られるラブストーリーに仕上げた。接近して存在するサカサマの2つの世界のビジュアルは面白い。日米(ソラナスはアルゼンチン生まれだが)で同時期に同じような発想をする人がいたことは興味深いなと思う。

2015/01/24(土)「江ノ島プリズム」

 大林宣彦版の「時をかける少女」の影響下にあるのが明らかで、ラストの処理まで同じなのには困ったもんだと思う。あの傑作を超えようとする気概がないと、影響下のままで終わってしまうのだ。オリジナルのアイデアをもっと詰め込んでほしい。主演の3人には好感度があるだけに残念。

2015/01/05(月)「寄生獣」

 人の顔が割れて怪物が正体を現すVFXが「遊星からの物体X」に似ている。どちらも人間に寄生する生物の話なので似てくるのは仕方がない。そう言えば、20年ほど前に原作を読んだ時にも同じことを感じたのだった。ただし、「寄生獣」は誰が寄生されているか分からないサスペンスを盛り上げた「遊星からの物体X」とはまったく違うテーマを持つ作品だった。原作を再読してみたら、「物体X」に似ているのは犬が寄生されるエピソードだけだった。

 2部作の第一部に当たる映画「寄生獣」は全10巻の原作のうち、5巻ぐらいまでのエピソードを手際よくまとめている。原作には出てくる父親は不在、母親が寄生されるエピソードにも改変を加えるなど、古沢良太と山崎貴の脚本は他の登場人物も減らして原作のエッセンスをうまくつかんでいる。原作よりも明瞭になったのは母と子の関係だ。主人公の泉新一(染谷将太)が幼いころ、母(余貴美子)が右手に負ったやけどのエピソードは原作にもあるが、これは映画の方が情感を高めて描いている。主人公の父親を登場させなかったのは母子の絆を強調するためだろう。そしてこの母子の関係は田宮良子(深津絵里)とその子供の関係にも受け継がれ、完結編のポイントになっていくのではないか。

2014/12/27(土)「サカサマのパテマ」

 重力が逆の世界というのなら珍しくないが、抱きしめていないと、人が空に落ちてしまうという光景は目新しい。ただし、重力が人によって選択的に作用する合理的な説明がない。それをどう評価するかが分かれ目。単なるファンタジーならそれでいいか。

2014/12/23(火)「アバウト・タイム 愛おしい時間について」

 「ラブ・アクチュアリー」のリチャード・カーティス監督作品。タイムトラベルの能力を持つ主人公を描くハートウォーミングなコメディだ。SFのアイデアを突き詰めているわけではなく、何度でもやり直せる人生の否定と、一度きりの愛おしい時間、日々を大切に生きることの重要さを訴えるドラマを用意している。アイデアよりもユーモアをちりばめたセリフのうまさに感心させられた。俳優の演技も含めて好感度の高い映画である。

 主人公のティム(ドーナル・グリーソン)は21歳の誕生日に父親(ビル・ナイ)から「うちの家系の男には代々、タイムトラベルの能力が備わっている」と聞かされる。その方法は暗い所で両手を握りしめ、過去のある場面を思い浮かべるだけ。最初は疑ったティムだったが、あっけなくタイムトラベルできてしまう。

 ロンドンの法律事務所に勤めるようになったティムはある日、ブラインデデートでメアリー(レイチェル・マクアダムス)と出会い、意気投合して携帯の電話番号も教えてもらう。下宿に帰ると、主人で舞台演出家のハリー(トム・ホランダー)が意気消沈していた。主演俳優がセリフを忘れて舞台が台無しになってしまったのだ。ティムは過去に戻って俳優を助ける。しかし、ブラインドデートに参加できなかったため、メアリーの電話番号が消えてしまっていた。

 ティムがタイムトラベル能力を使って、恋を成就させるのは予想通りの展開。この映画が良いのはさらにその先、結婚と子供の誕生、妹の不幸などのエピソードを描き、人生の愛おしさについて語っていることだ。リチャード・カーティスの感心がSFにあるはずはないから、これは当然の展開だろう。主人公は何度でも同じことを繰り返し、自分の思う通りの結果を手に入れられるが、タイムトラベルにはある制限があり、重要な選択を迫られることになる。そして主人公自身、繰り返すことの意味を再考するようになる。

 見終わってハッピーな気分になる映画。タイトル通り、この映画を見ている間も愛おしい時間だ。