2025/11/02(日)「爆弾」ほか(10月第5週のレビュー)
「爆弾」

ただ、爆弾犯スズキタゴサクを演じる佐藤二朗はいつものような演技で、クセが強すぎる感じがしました。原作のタゴサクもクセ強な人物ではありますが、少し方向が異なります。飄々とのらりくらりと取り調べの刑事を煙に巻くタゴサクが本心を言い当てられて、思わず素を見せてしまう場面などもなかったですね。
原作を読み終えたのが映画を見る45分前だったこともあって、取り調べシーンに意外性は皆無でしたが、爆発シーンの迫力には感心しました。動きの少ない取調室とは対照的で、VFX班が良い仕事をしています。タゴサクを取り調べる刑事は野方署の等々力(染谷将太)から始まって、警視庁の清宮(渡部篤郎)、類家(山田裕貴)と代わります。特に山田裕貴が良かったですが、事件の背景の推理で優秀すぎる感じがしました。タゴサクの動機も原作では納得しましたが、映画は少し説得力を欠きます。
交番の警官に坂東龍汰と伊藤沙莉。この先輩後輩コンビは良かったです。原作は「このミステリーがすごい!2023年版」で1位。続編の「法廷占拠 爆弾2」は2025年版7位でした。今、読んでます。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午後)2時間17分。
「Mr.ノーバディ2」

クライマックスではハッチの妻ベッカ(コニー・ニールセン)と父親デヴィッド(クリストファー・ロイド)も活躍します。組織の女ボス・レンディーナ役にシャロン・ストーン。監督はインドネシア出身のティモ・ジャヤント。
IMDb6.3、メタスコア59点、ロッテントマト77%。
▼観客20人ぐらい(公開7日目の午後)1時間30分。
「ミーツ・ザ・ワールド」
金原ひとみの原作を松居大悟監督が映画化。擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」を愛する27歳の女性会社員が歌舞伎町のキャバ嬢に出会い、新たな生き方に踏み出す話。女性会社員の由嘉里を杉咲花、美しく虚無的なキャバ嬢ライを南琴奈が演じています。杉咲花の圧倒的なリアリティーに支えられた映画で、饒舌な文体の原作同様、杉咲花は早口でセリフをしゃべりまくります。由嘉里と同じか少し上の年齢の女性のように思えるライ役の南琴奈は「実際には24、5歳か」と思ったら、19歳。オーディション時には高校2年生だったそうで、10歳ぐらい上の役を演じることを考えると、松居監督、よくキャスティングしましたね。フィルモグラフィーを見ると、映画「アイスクリームフィーバー」「水は海に向かって流れる」「花まんま」のほか、ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」などの出演作がありますが、今回がもっとも印象的でした。
エンドクレジットに菅田将暉の名前がありました。これは電話の声だけで登場するライの元カレ役なのでしょう。脚本は演劇ユニットを主宰する國吉咲貴。
▼観客10人ぐらい(公開6日目の午後)2時間6分。
「てっぺんの向こうにあなたがいる」

多部純子のモデルは女性で初めてエベレストに登頂した田部井淳子さん。田部井さんがエベレスト登頂に成功したのは50年前の1975年で、阪本順治監督は当時の風俗を盛り込みながら、まだまだ女性蔑視が多い中、パンに塗るジャムの量まで減らすなど節約に努めて登山の準備を進める女性たちを描いていきます。登頂には成功したものの、純子一人が世間の脚光を浴びたこともあって、グループはギクシャクして瓦解。家庭でも長男の真太郎(若葉竜也)が純子に反発を感じて家を出てしまいます。
吉永小百合の近年の主演作品にはあまり面白いものがありませんでしたが、これはそうした先入観を払拭する出来になっていると思いました。阪本監督は細かい描写がいちいちうまいです。終盤をもう少し刈り込んだ方が良かったかなとは思います。
純子の若い頃を演じるのがのん。親友で新聞記者の北山悦子(天海祐希)の若い頃を茅島みずきが演じています。脚本は「銀河鉄道の父」(2023年、成島出監督)などの坂口理子。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間10分。
「やがて海になる」

映画は広島県江田島市が舞台。うだつの上がらない生活を送っている修司(三浦貴大)と東京で映画監督として活躍する和也(武田航平)、呉市のスナックで働く幸恵(咲妃みゆ)の3人の関係を描いています。幸恵は高校時代、和也と付き合っていましたが、修司も密かに思いを寄せていました。今は水産会社社長と不倫関係を続けているという設定。江田島市は沖正人監督の故郷だそうですが、どうも話の内容は今一つ。脚本をもっと練って欲しかったところです。
上映後のQ&Aで質問した観客が4人いましたが、いずれも宝塚時代からのファンという女性でした。県外からわざわざ来たのでしょうかね。咲妃みゆは普段は舞台が中心とのこと。あいさつでの好感度が高かったので映画でも良い作品に出会ってほしいと思いました。
▼観客多数(公開4日目の午後)1時間30分。
「ファイナル・デッドブラッド」
一時は劇場公開が危ぶまれた映画ですが、一部の劇場で10月10日に公開後、22日から配信も始まりました。というわけでU-NEXTで見ました。傑作とは呼べないまでも、「ファイナル・デスティネーション」(2000年、ジェームズ・ウォン監督)に始まる「ファイナル」シリーズ6作の中で一番面白いという評価には頷けて、これならもっと拡大公開しても良かったのではないかと思います。冒頭、1960年代にスカイビュータワーが倒壊し、多数の犠牲者が出るシーンが迫力たっぷりで見せます。ここでプロポーズを受けるはずだったアイリス(ブレック・バッシンジャー)も事故に巻き込まれて死にますが、これはアイリスが予見した内容で、実際にはアイリスの機転で多くの人が救われました。アイリスの孫娘ステファニー(ケイトリン・サンタ・フアナ)は毎晩そのタワーが倒壊する夢を見て不審に思い、実家から離れて1人で暮らす祖母アイリス(ガブリエル・ローズ)を訪ねます。そこで分かったのはあの日、タワーにいて生き残った人たちとその家族・子孫が次々に亡くなっていること。死の運命には逆らえなかったわけです。このままではステファニーと両親、兄弟たちも死んでしまいます。
死を回避するには2つの方法があります。一つはいったん死んで復活すること、もう一つは誰かを殺してその余命を受け継ぐこと。年長者から順番に死んでいくルールもあり、これはつまり誰かがこの2つの方法のどちらかで死を回避できれば、それより若い世代は死を免れるということです。ステファニーは死の運命を変えるために奔走しますが…。
本作は14年ぶりのシリーズ作品。全体的にグシャッ、ベチョッという風な死に方が多いですが、R-18指定になるほど残酷ではありません。監督はアダム・スタインとザック・リポフスキー。
IMDb6.7、メタスコア73点、ロッテントマト92%。
2025/10/19(日)「DREAMS」ほか(10月第3週のレビュー)
コンペティション部門はさすがに競争が激しいなと思ったんですが、映画祭のサイトをよく見たら、僕が買った回は舞台あいさつとQ&Aコーナーが予定され、監督のほかに女優の朝倉あき、久保史緒里(乃木坂46)が登壇するのでした(主演は福地桃子なんですけど)。なるほど、アクセスが殺到するわけです。買えたのはかなり後ろの席。久保史緒里、豆粒ぐらいにしか見えないでしょうねえ。
「DREAMS」「SEX」

17歳の高校生ヨハンネ(エラ・オーヴァービー)は新任の女性教師ヨハンナ(セロメ・エムネトゥ)に恋をする。手編みを習う名目でヨハンナのアパートに通うようになるが、やがてヨハンナには女性の恋人がいることが分かる。失恋したヨハンネは1年後、ヨハンナとの付き合いを手記にまとめる。手記を読んだヨハンナの祖母(アンネ・マリット・ヤコブセン)と母(アネ・ダール・トルプ)は2人の生々しい性的描写にショックを受け、波紋を引き起こす。
母親がヨハンナの思いを「同性愛の始まり」と言ったことにヨハンナは不服そうな顔をします。ヨハンナにとっては単なる愛する心であり、異性愛との区別はないのでしょう。10代の女の子の初恋を描いていて、30代・40代の愛を描いた他の2作より若い世代に受ける映画なのではないかと思います。
IMDb7.3、メタスコア81点、ロッテントマト92%。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間50分。
三部作のもう1本「SEX」は前日に見ました。意図せずに男とのセックスを経験した夫が妻にそのことを話したことで、夫婦間にひずみが起こる展開。夫は罪悪感が全くなかったことから、妻に正直に打ち明けたんですが、妻は夫の行為を浮気と断定し、大きく傷つきます。
ハウルゲード監督の三部作に共通するのはディスカッションドラマの様相があることですが、これはほぼ全編ディスカッションという感じ。エモーショナルな部分が少なかったことで、評価も他の2作ほど高くなっていません。
観客が僕だけでしたけど、これはこのタイトルの影響もありそうです。原題がそうなので難しいんですが、女性が窓口ではなかなか言いにくいタイトルだと思います。
この三作、同性愛を含めた愛のトリロジーになっていて、僕は「LOVE」「DREAMS」「SEX」の順で良かったと思いました。
IMDb6.6、メタスコア69点、ロッテントマト82%。
▼観客1人(公開7日目の午後)1時間58分。
「ハウス・オブ・ダイナマイト」
核戦争の危機を描き、「未知への飛行」(1964年、シドニー・ルメット監督)を思わせるサスペンス。アメリカに向かってくるICBMが確認される。国内のどこかの都市に着弾するのは確実で、それまでの時間はわずか18分。映画はこの18分間を3人の登場人物の視点で繰り返します。
ミサイルはどこから発射されたのか分かりませんが、軌道から見て恐らく北朝鮮と推測されます。米軍は迎撃ミサイルを2発発射しますが、1発は軌道を外れ、もう1発も迎撃に失敗。秒速6キロで進むミサイルをミサイルで撃ち落とすのは「弾丸を弾丸で撃つようなもの」であり、「迎撃できる確率は61%」というセリフが出てきます。
大統領はこれ以上の攻撃を防ぐため、相手国への報復攻撃を迫られます。3レベルの攻撃をレア、ミディアム、ウェルダンと例えるのが怖いです。キャスリン・ビグロー監督はいつものように骨太の演出で見せますが、別の視点とはいっても18分を3度繰り返す脚本(ノア・オッペンハイム)には一考の余地があると思いました。
出演は米軍大佐にレベッカ・ファーガソン、大統領副補佐官にガブリエル・バッソ、大統領にイドリス・エルバ。
タイトルは爆薬がいっぱいに詰まったような状態で一触即発の現在の世界を意味しています。どこかの国が核ミサイルを発射したらそれで世界は終わりなわけです。24日からNetflixで配信されます。
IMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト84%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間52分。
「風のマジム」

気になった部分を具体的に書くと、派遣社員である主人公の伊波まじむ(伊藤沙莉)は南大東島のサトウキビを材料に沖縄の醸造家・瀬名波(滝藤賢一)に依頼してアグリコール・ラムを作る企画で社内コンペに応募します。それをサポートする正社員の先輩・糸数啓子(シシド・カフカ)は醸造家として有名な東京の朱鷺岡(眞島秀和)を提案、まじむもいったんはこれに納得します。しかし、朱鷺岡の横柄な人柄と言動に反発を覚えたまじむは純沖縄のラム酒にしたいと、醸造家を瀬名波に替えたプレゼン資料を内緒で用意し、役員にそれを配って説明します。同じチームの先輩に無断でこれをやるのはどう考えてもおかしいです。だまし討ちのようなやり方をせず、先輩の説得を試みるのが先でしょう。
原作でもこの流れではあるんですが、先輩のキャラが映画より意地悪になっていて、啓子は本音ではこう思ってます。
「沖縄産ラム酒製造なんて面倒くさいだけさ。こんな事業やられたらうちもたまったもんじゃないよ。さっさとつぶして、次いかなくちゃでしょ」
だから、まじむが啓子の意図に反した資料を用意するのもまあ納得できるわけです。映画も啓子のキャラをもっと意地悪く描いた方が良かったのでしょう。
まじむのモデルとなったのは南大東島に本社があるグレイスラム株式会社の代表取締役・金城祐子さん。原田マハは作家になる前に取材し、いつか小説に書くことの了承を得ていたそうです。
「まじむ」は沖縄ことばで「真心」の意味。監督の芳賀薫はCMディレクターなどを経て、これが映画監督デビュー。
▼観客20人ぐらい(公開5日目の午後)1時間45分。
「おーい、応為」

北斎から「応為(おうい)」の雅号を与えられるお栄を演じるのは長澤まさみ。男勝りのお栄を魅力的に演じていますが、それでも魅力の引き出し方がまだ足りないと思えるのは大森監督の「MOTHER マザー」(2020年)でも感じたことではありました。
北斎を演じるのは永瀬正敏、絵師の善治郎に高橋海人。出演者は良く、セットにも問題ないのに今一つ焦点が絞り切れていません。絵師としてのお栄をもっと見たかったです。
杉浦日向子原作をアニメ化した原恵一監督の「百日紅 Miss HOKUSAI」(2015年)は公開時に見ましたが、それほど面白くなかった記憶があります。見直してみようと配信を探しましたが、ありません。録画もしていませんでした。ふとWOWOWオンデマンドを見たら、あるんですね、これが。WOWOWでは11月20日に再放送しますので、録画しておこうと思います。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)2時間2分。
2025/10/12(日)「ホウセンカ」ほか(10月第2週のレビュー)
「ホウセンカ」

傑作テレビアニメ「オッドタクシー」の木下麦監督・此元和津也脚本のコンビによる大人向けのオリジナルアニメ。ヤクザを主人公にしたアニメは初めてらしいですが、題材とアイデアにそれほど新しいものはありません。それでもきっちりと仕上げた佳作になっています。
阿久津はある理由で堤の殺人の罪を被って刑務所に入り、身元引受人がいないことから30年間、出所できないでいます。死期が迫った阿久津(声:小林薫)には鉢植えのホウセンカ(声:ピエール瀧)の声が聞こえるようになり、「ろくでもない人生だったな」というホウセンカの言葉で那菜と暮らした頃を回想するわけです。
阿久津がたびたび口にする“最後の大逆転”がそれほどの逆転には思えないのが少し残念なところ。無実なのに30年間も刑務所に入り、死の床にある阿久津に十分報いるものにはなっていないと思います。心臓移植手術を受けられずに死んだと思っていた健介が実は生きていた、みたいな展開にしても良かったんじゃないでしょうか。
主人公が幸せを感じたのは庭にホウセンカが咲くアパートで親子3人の慎ましい生活を送っていた時であり、バブルに浮かれてお金を儲けただけ夜の街で使い切っていたころではないというのが泣かせます。幸せの絶頂であることをその時は分からず、過ぎ去ってから初めて知るのが世の常なのでしょう。
同じ趣旨の一節が「めぐりあう時間たち」(2002年、スティーブン・ダルドリー監督)の原作(マイケル・カニンガム)にあったのを思い出しました。
「まだまだ幸せの序の口だと思っていた。でも、あれから30年以上の時が流れ、クラリッサはときに愕然とすることがある。あれが幸せだったのだ。……今ならわかる。あれこそまさに至福の時だった。あのとき以外に幸せはなかった」

入場者プレゼントには映画に関連するショートストーリー「空白」が掲載されてました。僕のは「空白その③」でした。いくつまであるんでしょう?
▼観客2人(公開初日の午前)1時間30分。
「ひゃくえむ。」

映画を見た後に原作を読みました。原作の方が明確に面白いです。アニメ化にあたって、全5巻40話の原作のエピソードを省略したり、改変したりの脚色が行われていますが、その過程でこぼれ落ちたものの中に重要なものが含まれていて、それが原作の沸騰する熱量をやや下げることにつながったようです。
「音楽」と同じようにロトスコープを使ったアニメの技術は水準を軽く超えていると思います(岩井澤監督は今のところ、ロトスコープを使わずにアニメを作るつもりはないそうです)。脚色だけの問題なんですが、主に上映時間の短さが要因なので前後編に分けるか、テレビアニメ化の方が向いていたのでしょう。

「ラストはトガシと小宮のどっちが勝ったのか分からない描写になっていますが、そこに到達するための作品でもあります。勝ち負けにこだわった2人が勝ち負けを忘れ、走るのが好きだという感情に到達する。100mという勝負の世界から解放されるというクライマックスを書きたかったんです」
ちなみにこのインタビューには魚豊自身の漫画家になるまでの苦闘が語られていて、まるで「ひゃくえむ。」の登場人物たちのようだと思えました。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間46分。
「ブラックドッグ」

2008年の北京オリンピック間近の中国。人を殺めて服役した青年ラン(エディ・ポン)は刑期を終え、寂れた故郷に帰ってくる。人口流出が続き、廃墟が目立つ街には捨てられた犬たちが野犬化し、群れとなっていた。ランを気に掛ける警官から誘われ、地元のパトロール隊で働き始めたランは一匹で行動する黒い犬と出合う。頭が良く、決して人に捕まらないその犬とランの間にいつしか奇妙な絆が育まれてゆく。
監督のグァン・フーは若い頃、ピンク・フロイドが好きだったそうで、エンディングに流れるのもピンク・フロイドの「ヘイ・ユー」。舞台はそのまま西部劇に使えそうですし、中国映画に収まらない普遍的なものを備えています。世界で活躍できる監督じゃないかと思いました。
雑技団のダンサーを演じるトン・リーヤーは雰囲気のある良い女優ですね。新疆ウイグル自治区出身で少数民族シベ族だそうです。Wikipediaによると、夫は中国共産党の幹部とのこと。なるほど。「長江哀歌」(2006年)などの監督ジャ・ジャンクーが野犬捕獲グループのボス役で出ています。
IMDb7.2、メタスコア78点、ロッテントマト98%。カンヌ映画祭ある視点部門グランプリ&パルムドッグ賞審査員特別賞受賞。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間50分。
「レッド・ツェッペリン:ビカミング」

IMDb7.5、メタスコア64点、ロッテントマト85%。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午前)2時間2分。
「秒速5センチメートル」
新海誠監督の同名アニメ(2007年)の実写リメイク。オリジナル部分が多い現代パートを除けば、大筋、同じ話ですが、語り方の構成は異なります。残念ながら、アマチュア監督かと思えるほど間延びした拙い演出のオンパレードで、感傷過多の描写と今どき珍しくアホらしいピアノポロロンの音(それも呆れるぐらい何度も)が加わって、個人的には見続けるのが苦痛でした。奥山由之監督の前作「アット・ザ・ベンチ」(2024年)は悪くありませんでしたが、あれは短編集だったからボロが出なかったのだろうと、意地悪な見方をしたくなります。監督自身が感傷に溺れるような演出は好ましくありません。
新海誠のアニメ版の第2話までを僕はその年のベストと思い、「One more time, One more chance」のMVみたいな作りで終わった第3話を見てワーストだと思い直しました。実写版はその第3話をどう描くかに興味があったんですが、あーあ。すれ違いのドラマに終始していて、こんなことなら実写化なんてやらない方が良かったです。
子役2人(上田悠人、白山乃愛)と主人公(松村北斗)の現在の恋人役を演じる木竜麻生は良かったです。ヒロインを演じる高畑充希はキャスティングを聞いた時にアニメ版のイメージと違うと思いました。本編でも演技のし甲斐のない役柄でした。
ここまで書いたところで、アニメ版がWOWOWオンデマンドのランキングに入っていたので、久しぶりに見しました。結果、小中学生時代を描く第1話「桜花抄」に尽きる作品だなと思いました。種子島を舞台にした第2話「コスモナウト」はこれには及ばず、第3話「秒速5センチメートル」は記憶よりもMV部分が短かったですが、この終わり方ではダメだと改めて思いました。
▼観客多数(公開初日の午後)2時間1分。
「ブラックバッグ」

プロの高評価に対して一般の評価が高くないのは演出にメリハリが欠ける部分があるからでしょう。ストーリーがのみ込みにくい結果になっています。主演はマイケル・ファスビンダー、その妻にケイト・ブランシェット。脚本は前作「プレゼンス 存在」(2024年)に続いてソダーバーグと3度目のタッグとなるデヴィッド・コープ。
IMDb6.7、メタスコア85点、ロッテントマト96%。
▼観客2人(公開12日目の午後)1時間34分。
2025/10/05(日)「ワン・バトル・アフター・アナザー」ほか(10月第1週のレビュー)
「恒星の向こう側」は公式サイトがまだありませんし、公開日程は決まっていないようです。福地桃子主演なので、これは映画祭で見たいと思ってます(チケットが買えるかどうか)。同じく福地桃子主演で11月28日公開の「そこに君はいて」(竹馬靖具監督)は中川監督が原案を担当、出演もしています。
「ワン・バトル・アフター・アナザー」

主人公のボブを演じるのはレオナルド・ディカプリオ、警察官ロックジョーにショーン・ペン、成長した娘ウィラにチェイス・インフィニティ。ボブは逃亡生活に慣れきって、すっかり自堕落な生活を送るようになっていて、ダメ男・ダメ父とウィラからバカにされてます。そんな父と娘ですが、母親のペルフィディア(テヤナ・テイラー)不在のためもあってお互いに強い愛情に結ばれていて、ロックジョーに拉致されたウィラをボブは必死に探し求めます。組織の合い言葉も忘れるダメな父親と、バカにしながらも父親の教えには従っているしっかりした娘の関係が微笑ましいです。
父と娘、そして不在の母との家族の絆が後半のメインになっています。極めてハッピーな終盤の展開がとても良く、歓喜のラストには拍手を送りたい気分になりました。近年のアンダーソン監督の映画では最も大衆的なそして好感の持てる作品だと思います。
チェイス・インフィニティはテレビドラマには出ていますが、映画はこれがデビュー作。映画の魅力の一つが彼女であることは間違いありません。拉致されても決して諦めず、隙あらば逃げようとする逞しさがおかしくて良いです。これから売れる女優だと思います。ショーン・ペンも執拗でサイコ的な警官をさすがの演技で見せています。
パンフレットのインタビューによると、アンダーソン監督は20年前からカーアクションの映画を撮りたかったそうです。なるほど、前半の街中を猛スピードで走る車も後半、荒野の一本道でのカーチェイスも迫力満点なのはその狙いがあったためでしょう。カーアクション、特に後半の描写に関しては「バニシング・ポイント」(1971年、リチャード・C・サラフィアン監督)などのアメリカン・ニューシネマを思わせました。
IMDb8.4、メタスコア95点、ロッテントマト96%。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)2時間42分。
「LOVE」

泌尿器科に勤める医師マリアンヌ(アンドレア・ブレイン・ホヴィグ)と看護師トール(タヨ・チッタデッラ・ヤコブセン)が主人公。ある晩、マリアンヌは友人から紹介された地質学者のオーレ(トーマス・グルスタッド)と会うが、子どもがいる彼との恋愛に前向きになれなかった。その後、たまたま乗ったフェリーでトールに遭遇。出会い系アプリで始まるカジュアルな恋愛を語るトールに勧められ、興味を持ったマリアンヌは自らの恋愛の可能性を探る。一方、トールはフェリーで知り合った精神科医のビョルン(ラース・ヤコブ・ホルム)を勤務先の病院で見かける。ビョルンは前立腺の病気を患っていた。
オーレと会った後に出会い系アプリである男と出会い、その夜のうちにセックスをしたマリアンヌはその男に「出会い系アプリは無料の売春宿」という言葉を聞かされます。男の友人の言葉なのですが、男には妻がいることも分かり、「ホントの僕はいいやつなんだ」と話す男にうんざり。この男との会話がほぼディスカッションで面白かったです。
ゲイのトールはビョルンを気遣い、手術後のビョルンの世話をします。トールの優しさに触れて、ビョルンは愛のない孤独で臆病な身の上とその理由を話し始めます。この描写がとても良いです。映画は異性愛と同性愛の両方について過不足のない描き方をしています。
ハウゲルード監督は1964年12月生まれ。2012年の長編デビュー作「I Belong」で国内の賞を総なめにしたそうです。2024年から「SEX」「LOVE」「DREAMS」の順番でこの3部作を撮りました。作家でもあり、小説4本を発表しています。
IMDb7.3、メタスコア83点、ロッテントマト96%。
▼観客5人(公開2日目の午後)2時間。
「海辺へ行く道」

芸術家が多い海辺の町を舞台にした物語。連作短編の原作からエピソードをピックアップして描いています。出演は原田琥之佑、麻生久美子、唐田えりか、高良健吾ら。
エンドクレジットに松山ケンイチと駒井蓮の名前がありました。横浜監督の「ウルトラミラクルラブストーリー」(2009年)に主演した松山ケンイチが声だけの出演なのは気づきましたが、同じく監督の「いとみち」(2021年)の主演・駒井蓮はどこに出てきたか分かりませんでした。調べたら、予告編の最後のタイトルコールをしてるんだそうです。うーん、それ、本編のクレジットに入れるかなあ。予告編や公式サイトの作成者もクレジットに入れるからおかしくはないですかね。
▼観客4人(公開初日の午後)2時間20分。
「沈黙の艦隊 北極海大海戦」

映画は2023年のドラマ再編集の劇場版に続く2作目ですが、時代に合わせたアップデートをする必要があったんじゃないでしょうか。アクティブソナーを打っただけで、敵がひるむ描写にもリアリティーが感じられませんでした。アメリカから見れば、自分の考えを押し通す海江田艦長(大沢たかお)の言動はテロリスト以外の何ものでもないです。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)2時間12分。
「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」

主人公のザ・ザ・コルダ(劇中ではジャー・ジャー・コルダと言ってます)をベニチオ・デル・トロがバスター・キートンのように無表情で演じ、マイケル・セラ、リズ・アーメド、スカーレット・ヨハンソン、ジェフリー・ライト、トム・ハンクス、ベネディクト・カンバーバッチらがそろってキャストは豪華です。IMDb6.7、メタスコア70点、ロッテントマト77%。
▼観客10人ぐらい(公開6日目の午後)1時間42分。
「俺ではない炎上」

予告編では身に覚えのない炎上に巻き込まれた主人公を描くコメディーと思えましたが、骨格はしっかりしたミステリー。主演が阿部寛なので確かにコメディータッチの部分は多いんですが、ミステリーとしての基本は外していませんでした。観客に向けたトリックが良いです。
このトリック自体は特に珍しいものではありません。それをうまく使っていることに好感を持ちました。謎の大学生に芦田愛菜、阿部寛の取引先の社員に長尾謙杜、部下に板倉俊之、浜野謙太ら。脚本は「ディア・ファミリー」「少年と犬」の林民夫。
これを見て改めて最近のネットでの個人情報暴露と追跡は筒井康隆の傑作「おれに関する噂」(1974年初版)の世界を思わせるなと痛感しました。あの小説は先駆的・預言的だったわけですね。
▼観客8人(公開初日の午前)2時間5分。
「火喰鳥を、喰う」

ホラーなので主人公にとってのバッドエンドでも良かったんですが、映画は「時をかける少女」(1983年、大林宣彦監督)のようなエピローグを用意しています。この部分は原作にはないそうです。主演の水上恒司、山下美月、宮舘涼太はそれぞれ悪くない演技でした。監督は「シャイロックの子供たち」(2023年)などの本木克英、脚本は「俺ではない炎上」の林民夫。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午後)1時間48分。
2025/09/21(日)「劇場版チェンソーマン レゼ篇」ほか(9月第3週のレビュー)
アニメ部門は一昨年の「ロボット・ドリームズ」、昨年の「野生の島のロズ」「Flow」など毎年傑作が多いんですが、今年はどうなのでしょう。12本中4本は再公開作品となってます。チケット発売は10月18日。また争奪戦になるのでしょう。去年の経験ではパソコンよりスマホの方が販売サイトにつながりやすかったです。
「劇場版チェンソーマン レゼ篇」

公安対魔特異4課に所属するデビルハンターのデンジは4課を取り仕切る美女マキマとのデートに有頂天になる。その帰り道、雨宿りの電話ボックスで、レゼと名乗る少女と出会う。働いている喫茶店で笑いかけてくれるレゼをデンジは「もしかしてこの娘、俺のコト好きなんじゃねえ?」と思い、店に通い詰める。夜の学校のプールで一緒に泳いだデンジはますますレゼを好きになる。夏祭りの夜のデートで2人はキスを交わすが……。
16歳のデンジの思春期男子らしいエピソードが詰まった前半に対して、後半は爆弾の悪魔(ボム)と逃げるデンジ(チェンソーマン)たちとの戦い。ドッカンドッカンのアクションは十分に堪能しましたが、ドラマはやや物足りず、レゼの悲しい生い立ちにもっとフォーカスしてくれると、さらに深みのある映画になったのにと思います。生い立ちについてラストで少し触れられるだけなのは原作通りなんですが、そこから想像できるオリジナル描写でドラマを作れば良かったのにもったいないです。「デンジ君、ホントはね、私も学校いったことなかったの」とつぶやくレゼの悲しさをもっと活かしてほしかったです。

来場者プレゼントの小冊子には藤本タツキのインタビューが掲載されています。これ読むと、藤本タツキ、かなりの映画ファンのようで、マキマとデンジが1日何本も映画を見るデートをするのはそのためなのでしょう。「レゼ篇」の参照作品として「人狼 JINROH」「台風クラブ」「ノーカントリー」「悪の教典」「寄生獣」「トップをねらえ!」「シャークネード」「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! 夕陽のカスカベボーイズ」などを挙げています。ラスト、デンジが待つ喫茶店に向かうレゼの描写で僕はなんとなく「レオン」(1994年、リュック・ベッソン監督)を連想しました。
劇場公開されたのはまだ日本だけですが、24日の香港を皮切りに各国で公開が始まります。IMDbで数えたところ53カ国でした。「鬼滅の刃」同様、テレビアニメを各動画サイトで配信しているので世界のアニメファンにも知られているでしょう。これによって海外公開のハードルは格段に下がるわけで、配信の力は大きいなと思います。監督は吉原達矢、脚本は「進撃の巨人」「呪術廻戦」などSF作品ではおなじみの瀬古浩司。IMDbの評価は9.1です(9月21日現在)。
オープニングの米津玄師「IRIS OUT」も良いですが、エンディングの米津玄師&宇多田ヒカルの「JANE DOE」が切なくて良すぎます。
▼観客多数(公開初日の午後)1時間40分。
「ふつうの子ども」

小学4年生の唯士(嶋田鉄太)は思いを寄せる同じクラスの心愛(瑠璃)が環境問題に詳しいのを知って、自分も環境問題の本を読み、心愛の関心を引こうとしたのがことの始まり。そこに少しやんちゃな陽斗(味元耀大)が加わって、3人は大人に環境問題を訴える行動を起こす。最初はチラシを配ったり、貼ったりのささやかないたずらレベルの行動だったが、ある行為が深刻な事態を引き起こしてしまう。
その行為が3人の仕業と分かり、親たちが学校に呼び出されて始まるのは会議室での校長と担任教師(風間俊介)を交えた悪夢のような場面です。3家族の在り方はそれぞれに違いがあり、その対比が実にリアル。唯士の母親を演じるのは蒼井優。これが最も普通のように思えました。幼い弟2人がいる陽斗は母親から「頼りになるお兄ちゃん」と思われていて、母親はやんちゃな姿を知らないのがいかにもありそうです。しかし、白眉は心愛の母親を演じる瀧内公美でしょう。
心愛に対する態度が実に怖いです。蒼井優に向かって口パクで言うシーンはなんと言ってるか分からなかったんですが、パンフレットに収録された完成台本によると、「なんなのテメェ」でした。なるほど。その瀧内公美について子役の瑠璃は子役3人のクロストークで「もう朝から役に入られていて、撮影の合間に話しかけてくれるんですけど、それが素っ気ない口調で、すごく怖いんです」と話しています。そして「私たちがちゃんと怖がれるように配慮されたんだと思います」と付け加えているのに感心します。子役3人は実によく分かっていますね。
普通の子どもたちも彼ら同様に大人をよく見ているのでしょう。大人にも子どもにも面白い作品になっていると思います。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間36分。
「宝島」

1952年から約20年間、アメリカ統治下の沖縄を描く骨太のドラマ。米軍基地から物資を盗んで住民に配る“戦果アギヤー”のオン(永山瑛太)が嘉手納基地襲撃の後、行方不明になる。親友のグスク(妻夫木聡)、オンの弟レイ(窪田正孝)、恋人のヤマコ(広瀬すず)はオンの行方を必死に捜すが、見つからない。映画は刑事になったグスクとヤクザになったレイ、教師になったヤマコを描きながら、統治下の沖縄で起きる事件を描いていきます。オンは「予定にない戦果を手に入れた」との言葉を残していて、その戦果の謎が縦糸にもなっています。
「なんくるないですむかっ、なんくるならんぞー」。米兵による交通事故に端を発した1970年12月のコザ暴動の中でグスクが叫ぶ言葉は米軍絡みの事件事故が多発し、反発が強まっていた住民の怒りの爆発を象徴しています。大友監督はNHK時代に叩き込まれた「声なき声を届ける」ことを念頭に映画を撮ったそうです。スペクタクルなシーンを含めてその思いが詰まった映画になっています。
共演は中村蒼、瀧内公美、村田秀亮(とろサーモン)、塚本晋也、ピエール瀧ら。時代を反映してオールディーズがたくさん流れます。カスケーズの「悲しき雨音」(Rhythm of the Rain)も懐かしかったですが、個人的にぐっときたのはピンキーとキラーズ「涙の季節」でした。
▼観客9人(公開初日の午前)3時間11分。
「ベートーヴェン捏造」
かげはら史帆の原作「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」をバカリズムが脚色、「かくかくしかじか」の関和亮が監督したコメディタッチのドラマ。終盤に面白くなりましたが、それまではフツーの出来でした。「ベートーヴェン捏造」と言うより「ベートーヴェン伝記捏造」と言う方がしっくり来る内容。主人公でベートーヴェンの伝記を書くシンドラーを山田裕貴、ベートーヴェンを古田新太が演じています。原作が面白そうなので、これから読みます。
▼観客30人ぐらい(公開5日目の午後)1時間55分。